猫の血尿(猫特発性膀胱炎って何?)

猫ちゃんの診察で最も多い相談が、急性の「血尿」「頻尿」といった泌尿器の症状です。
これらの症状の原因疾患として、ご家族の皆様に知っておいて欲しい疾患があります。

➡︎ 聞いたことある疾患No.1:尿結石症
   → 結石が尿道に転がり落ちると尿道閉塞を生じます。「トイレに何回も行くけど尿が出てない」は、
    尿道閉塞の可能性があります(特に男の子!)。
    尿道閉塞は一晩様子見しただけでも命に関わります

➡︎ 案外少ないって知ってました?細菌性膀胱炎
   → 膀胱内に細菌が検出され、炎症と伴っている場合、細菌性膀胱炎と診断します。
    動物病院で抗菌剤を処方されたら、それは細菌性膀胱炎の治療のためです。
    しかし、近年では、猫の細菌性膀胱炎は案外少ないという事が分かってきています
    (若齢で特に!)。

➡︎発生率はダントツNo.1!なぜか皆知らない 猫特発性膀胱炎(Feline Idiopathic CystitisFIC)
   → 一時診療で、とてもよく遭遇する猫の泌尿器疾患です。これが再発率も高いし、治療も難しい..
   大変厄介な膀胱炎です。でも、なぜか認知度が低いと日々実感しています(´_`)。この長い名前が
   ダメなんでしょうか?

今回は、認知度UPのためFICについて解説しようと思います。
話す事が多いので長尺になってしまいました、、お付き合い下さい😅

猫特発性膀胱炎とは?
頻尿血尿排尿困難有痛性排尿障害不適切な場所での排尿などのトイレ問題を引き起こす、
猫特有の疾患です。
→ これらは、どの下部泌尿器疾患にも共通する症状です。症状だけで原因を判断することはできません。

✅若い猫(10歳齢以下)の排尿トラブルの原因の約60%がFIC!
 → 10歳齢以上の場合は、細菌感染や腫瘍のリスク高くなり、FICの発生率は低くなります

✅発症に至るメカニズムや原因は、十分に分かっていない
 → 原因が明確でないため治療も難航する事が多いです

再発率が非常に高い
 → 2年以内の再発率が 58%という報告もあります。原因治療の難しさから再発率も高い傾向にあり、
   経験的にも再発するケースが非常に多い印象です

診断方法
✅ 尿検査
✅ 画像検査(超音波検査やX線検査)
✅ 血液検査
→ FICの場合、血尿など膀胱炎の所見以外に明らかな異常が見つからないことが特徴です。言い換えると、FICと診断のためには、全身精査による除外診断が必要なんです。「血尿だけで全身みるの?!」って思いますよね。ですが、診断が異なると治療方針も大きく異なるため、可能な限り全身精査を実施します。もちろん、ご家族様と相談の上で検査を選択するため、最小限の検査で診断せざるを得ない場合もあります..。

※余談
一番重要な検査は尿検査です!そして、尿検査のために必要なのが採尿です。方法は、①持参してもらう、②穿刺採尿(膀胱から直接尿を採取します)、③カテーテル採尿(尿道カテーテルを挿入します)、④圧迫排尿(膀胱を手で圧迫します)がありますが、最も推奨される方法は、②穿刺採尿です。
理由は、最も信頼性の高い検体が採取できるためです。なので、当院では可能な限り院内で穿刺採尿を実施しています。その他の採尿方法の場合、外部環境や皮膚から細菌やゴミが混入するなどデメリットがあり、それらを考慮したうえで実施しなければなりません。

FICの原因は?
✅ FICの原因やメカニズムはまだ完全に解明された訳ではありませんが、行動学的な問題(ストレスなど)と関連する事が徐々に分かってきています。そのために、複数のメカニズムが絡み合い、複雑な病態であると考えられています。

✅ 膀胱粘膜のバリア成分(グリコサミノグリカン)の減少により、尿中毒素が膀胱粘膜を刺激する

✅ストレスによる免疫や膀胱粘膜への異常
 →ストレスにより交感神経が活性化されると、炎症性サイトカインの増加や膀胱粘膜の透過性亢進を引き起こし膀胱粘膜が弱くなる

✅もともとストレスに弱い体質?
 →胎児期に母猫に強いストレスが加わった場合や、新生児期にストレスに曝露されることがFICの発症に関与しているかもしれません

✅ どんな猫がFICになりやすいのか?
 - トイレに不満がある
 - 室内飼育
 - 肥満
 -同居の猫より臆病、神経質
 - 飲水量が少ない
 - 狩猟行動ができない・運動不足
 - 引っ越し、工事など環境変化があった などなど
 ➡︎ 様々な事が原因でストレスを抱えているイライラが溜まっている猫に発生しやすいと
  考えれています。


✅ おうちの猫ちゃん、トイレを気に入ってますか?
FICの原因として多いと考えられているのが、設置したトイレへの不満です。
考えてみれば、我々もトイレ環境って気にしますよね?「和式はいや!」とか、「うわ!流してないじゃん…」  とか、「公衆便所はできれば使いたくない..」とか笑。猫も同じような不満をトイレに持っていると考えられます。下記のサインが見られたら要注意です!⬇︎。
 - 排泄前にトイレの砂を掻かない
 - トイレの側面や床を引っ掻く 
 - 側面に前脚が2本以上乗る         
 - 速攻でトイレから出てくる
 - 排泄を隠そうとしない
 - そもそもトイレで排泄しない


   ←こんな感じでトイレしていませんか?😹

※余談:猫の正常なトイレの仕方
トイレするポイントをちょっと掘る ➠ 座ってゆっくりトイレする ➠ 排泄物をしっかり隠す
➠ 満足げに去っていく🐈‍⬛♪

治療方法
そもそも、完治は目指さない
  →根本的な原因を完全に解決する事は難しく、再発する事が多いため、再発までの期間をいかに
  長く保てるかが重要となります。

抗菌剤・止血剤・消炎剤は不要
 →背景にあるストレス因子や体質改善が治療の根幹であり、止血剤などの薬で改善するという
  エビデンスはありません。
 →ただし、症状が重度な場合には、一時的な治療として鎮痛剤などを処方する場合もあります。

7日以内に90%の症例で自然に改善がみられる
 → 絶対にと言い切ることは難しいですが、無治療でも約7日で症状が改善するという報告があります。
  感覚的にもそう感じますが、もっと時間がかかる症例もあったり…

環境改善が何よりも大切!
 → トイレ環境の改善や、ストレス因子の除去など身の回りの環境を整えてあげることが重要です。
  そこで、登場するのが『多面的環境改善(MEMO)📝』という治療の考え方です。
 → 患者ごとに生活環境が違うため、ストレス因子も十人十色です。なので「これだけやれば治る!」
  という治療ではなく、「多面的に」問題点を1つ1つ変えてあげましょう!という治療の考え方です。
 → 論文では、10ヶ月間MEMOを実施したところ、排尿トラブルの発生頻度に大幅に改善が見られています
 (毎週から再発なしまで改善)。また、恐怖心や攻撃性など猫の行動にも大幅な改善がありました。
出典:Buffington CA et al.(2006)

環境改善のポイント
その1:トイレ環境の見直し
    ➡︎ 大きいトイレに変更(猫の体長×1.5)
    ➡︎ こまめに掃除し、清潔に保つ
    ➡︎ トイレは猫の落ち着く場所に設置
    ➡︎ 飼育頭数+1個または、各グループに1個トイレを用意する
    ➡︎ トイレの素材を鉱物系(= 普通の砂)に変えてみる
    
その2:個人空間を確保する
    ➡︎ 猫には邪魔されずに1人になれる空間が必要です。
    ➡︎ お気に入りの場所があれば、そこにいる間はそっとしておきましょう
    ➡︎ 多頭飼育の場合、1匹につき1部屋が飼育頭数の目安です

その3:楽しい時間を作る、ストレス発散をさせる
    ➡︎ おもちゃで遊ぶ
    ➡︎爪研ぎなどストレス発散のグッツを用意する
    ➡︎留守番中にテレビをつける 
    ➡︎外を見れるにする

その4:食事による治療
    ➡︎ 加水分解ミルク蛋白(=CLT)を含有する食事(例:ユリナリーS/O + CLT)
    ➡︎ 抗酸化成分、ω3脂肪酸を強化した食事(例:c/d マルチケア)
    ➡︎ ウェットフードを中心に変更し、水分摂取量を増やしましょう
    ➡︎ 水をいつでも飲めるように置き場所を増やしましょう

その5:薬による治療
    ➡︎クランベリー抽出物エキスサプリメント(例:ウロアクトプラス、Cranberry BB)
    ➡︎L-トリプトファン サプリメント(例:CALMEX)
    ➡︎カソゼピン サプリメント(例:ジルケーン、CBD)
    ➡︎三環系抗うつ剤(例:アミトリプチン)
    ➡︎薬剤による治療はあくまで補助的なものであり、環境改善と併せて使用することで
     大きな効果が期待できます

猫ちゃんのトイレトラブルの際には、いつでもご相談下さい☺️😸

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