僧帽弁閉鎖不全症

□症例
動物種:犬
犬種:ポメラニアン
年齢:10歳

僧帽弁閉鎖不全症の経過観察のためご来院いただきました。症状はなく自宅での一般状態は良好であり、自宅で強心剤の投薬をされていました。検査内容とし胸部レントゲン検査、心エコー検査を実施したところレントゲン検査にて軽度な心拡大と、エコー検査にて中程度の僧帽弁逆流、左房径の拡大を認めました。加療の変更は必要ないと判断し、現行治療継続をご提案し次回は3-4か月後のご来院予定となりました。

□ 僧帽弁閉鎖不全症の概要
 僧帽弁閉鎖不全症は小型犬に最も多い心疾患として知られています。その割合は75-80%程であり、国内では筆頭をキャバリアとし、次いでマルチーズ、チワワ、トイプードルなど小型犬種に多い疾患です。心臓内を流れる血液は右心房から右心室と向かい、その後肺動脈を介し肺に血液を送ります。その後酸素を充填された血液は左心房に戻り、次いで左心室から最後は大動脈を介し全身に血液が送られます。

心臓内を流れる血液は基本的には一方通行であり、基本的には逆戻り等はしません。これは各部屋の間に存在している弁が血液の向かう方向をコントロールしているためですが、僧帽弁閉鎖不全症を患うと僧帽弁の機能が低下し左心房から左心室に血液が逆戻りしてしまいます。このような血液循環の異常から心臓内に血液がうっ滞し様々な症状を呈するようになります。

□ 僧帽弁閉鎖不全症の病因
 僧帽弁閉鎖不全症の明らかな病因は不明です。しかしながら好発犬種の存在、一部では同腹の個体で発症が認められていることから遺伝的な疾患である可能性が示唆されています。

□ 検査および治療
 僧帽弁閉鎖不全症の診断と治療は一般的には米国獣医内科学会(ACVIM)により2009年に提唱された治療ガイドラインに則っています。主にステージはA~D(ステージBのみB1、B2が存在する)の5段階で評価され各ステージにおいて推奨される治療内容が存在します。

現在犬の僧帽弁閉鎖不全症の内科治療においてピモベンダンが柱となる治療薬として知られています。上記ガイドライン発行時ピモベンダンの開始タイミングと効果は不明確でした。しかし椎骨心臓サイズが10.5以上(レントゲン検査における心臓サイズの評価)、左心房大動脈径比が1.6以上、標準化左室拡張末期径が1.7を超える患者にピモベンダンを投与したところ、プラセボ群と比較しうっ血性心不全を発症するまでの期間が有意に延長したとする報告が2016年になされました(EPIC Study)。この報告から上記基準を満たす患者には当院においてもピモベンダンの投薬を開始しております。

僧帽弁閉鎖不全症は進行すると心不全を発症し呼吸不全を呈します。心不全を発症した場合、十分な酸素を体に取り込むことができず命に危険がおよぶ非常に切迫した状態といえます。我々さざんか動物病院は心不全患者の受け入れに必須といるICU設備(集中管理室。高濃度の酸素の充填と温度管理が可能な特殊な入院ケージ)を完備しておりますので、ご自宅で心不全を発症してしまった場合は迷わずご相談ください。