皮膚病が治らない~スキンケアの悩み パート③ 保湿編~

さて今回はいよいよ保湿のお話をしてみようと思います。
保湿を制する者はアトピーを制するといっても過言ではないほど保湿は非常に大切です。

保湿のお話をした際に皆さんからいろいろとご質問を受けます。
皆なさんとお話をすることでどんなことに悩んでいらっしゃるのかがよくわかり、日々我々も勉強させていただいております。

いただくご質問で多いものを挙げてみます。
① どんな保湿剤を選ぶべきですか?
② 保湿の頻度はどの程度実施すべきなのか。やりすぎはダメですか?

以上がよくいただくご質問になります。
いずれのご質問も保湿についてお話をするうえで非常に重要なこととなりますので1つずつ説明をしていこうと思いますが、その前にどのように皮膚(角層)に水分をとどめているかのお話からしてみようと思います。

角層の水分量は
A:角層から失われる水分
B:角層外から入ってくる水分
C:角層内に水分をとどめる力

以上3つのバランスにより角層内に水分が保持されています。

例えばシャンプー後は経表皮水分蒸散量(TEWL)が上昇することをパート①でお話させていただいたかと思います。
シャンプーのデメリットのお話ですね。シャンプー後は A に該当するTEWLの上昇により角層から水分が失われ、肌が乾燥するわけです。
他の例では、アトピーのワンちゃんは健康な子と比較しTEWLが有意に高いことが知られています。また角層内の細胞間脂質として知られるセラミドの含有量が健康な子と比較し引くいことも知られています。
細胞間脂質のセラミドは角層内に水分を保持するのに重要な働きをしていますので、TEWLの増加と C に該当する角層内に水分をとどめておく力が低いことで肌が乾燥しがちなわけです。

① どんな保湿剤を選ぶべきか?
 これは我々の私的見解が非常に入っておりますが、一番大切なことは「使いやすいもの」です。
保湿は毎日実施するものになりますので使用感が悪い、なんかべたべたする、毎回キャップが開けづらい・閉めづらい等、ご家族の皆さんとワンちゃんが「ストレスなく継続できるもの」が我々は最高の保湿剤と思っております。
細かい話をするなら「手に入りやすい」、「価格帯が許容できる」等も大切です。

もちろんそれだけではなく保湿剤の剤型と使用箇所で選択することも重要です。
保湿剤は大きくエモリエントと呼ばれるものとモイスチャーライザーと呼ばれるものの2種類に分けられます。

<エモリエント>
 主に油分を多く含むもの。軟膏などが該当し角質表面に膜を作り角層からの水分蒸散を防ぐのが役割。皮膚への刺激が少なく肌に優しいのがメリットだが、べたつき、伸展性の低さなど使用感があまりよくないのが欠点。
ワセリンなどが代表的なものとして挙げられる。

<モイスチャライザー>
 角層内に直接水分補給をする能力をもつもの。製剤によってはモイスチャライザーの成分そのものが角層内に浸透し角層の水分保持能を(いわるゆ C に該当する能力)高めることができる。デメリットとして掻き壊しがひどい部分や炎症が強い部分には刺激となることがある。

左から軟膏、クリーム、乳液、ジェル、ローションになります。
軟膏はエモリエント効果が強く、逆に左にむかうにつれエモリエント効果は薄くなり、モイスチャライザーとしての役割が強くなります。

またせっかくですのでモイスチャーライザーにも種類があることを少しだけ触れてみようと思います。


多価アルコール・糖アルコール系:一般的な保湿剤。さっぱりした使用感。外気の湿度が低いと乾燥を助長する可能性がある
水溶性高分子:保湿力が高いが分子量が大きいため、角層内に入り込むことができない
天然保湿因子:吸水率が極めて高く水との結合率が高い

以上が保湿剤の成分になります。こう見ると多価アルコール系よりも天然保湿因子などが主原料の保湿剤の方が優れてるようにも見えますが、使い分けが大切かなと思っております。
例えば冬場はオイリーなしっとり系の保湿剤を使用し、夏場などはさっぱりした保湿剤を使用するなど成分の特徴をうまく使い分けながら季節ごとに工夫をすることをお勧めします。

また毛が多い部位にはローションタイプ、や乾燥で腹部など毛が少ない部位に使用する際は乳液等を使用するなど使用部位に応じても工夫をしてみるとよいかと思います。

② 保湿の頻度
 保湿剤の使用頻度ですが、1日2回で実施するのがベストです。
そのため使用感がよいもの、毎日使用できるものを選んでいただだくことが非常に重要かと思います。もし毎日2回の保湿が面倒、忙しくて毎日できないといった場合に「スポット製剤」の使用が代替案として挙げられます。
スポット製剤は数日に1回の使用頻度で十分に保湿できますので、保湿はしっかりやってあげたいけど忙しくてできない場合には検討してみるのがよいかと思います。

また保湿のやりすぎで何か問題が引き起ることは基本的にはありませんので、肌に潤いを保たせるために十分保湿をしてあげてください。

以上になります。
なんとなく保湿剤の選び方や重要性がご理解いただけましたでしょうか。

保湿は皮膚治療の中でも非常に重要なものです。
過去かゆみ止めの内服薬を使用している患者さんに対し、保湿剤の使用によりかゆみ止めの内服頻度を減らすことができるかといった検討がなされました。この検討により保湿剤の使用により、かゆみ止めの減薬が可能であったといったことが報告され保湿剤の重要性が明らかとなりました。(Terashima et al. Vet Dermatol 2021)。

このように保湿剤は単なるスキンケアにとどまらず、明らかに治療の一環として重要な立ち位置を占めているといえます。
是非皆さんも皮膚病(特にアトピー)に苦しんでいるワンちゃんを少しでも楽にしてあげるために保湿を一生懸命やってあげてください。

次回は保湿のトピックを引き続きお話してみよう思いますが、ワンちゃんも入浴をする時代が来ました!
是非興味があればご一読よろしくお願いいたします。