チョコレート中毒

症例:犬
年齢:10歳

夜間診療時間にて自宅でチョコレートを数個誤食したとお電話にてご相談を受けました。
内容として、自宅でチョコレートを数個摂取してから数時間経っており、嘔吐・活動性の低下などの症状がでているとのことでした。
すぐに来院すべきかご家族様はお悩みのようでしたが、状態が悪化してからでの対応では命に関わるため協議の結果来院していただくこととなりました。

来院時意識レベルは清明(意識ははっきりしている状態)、興奮・流涎はなく、心拍数は144回/分と明らかな頻脈は認めませんでした。
ご家族様への問診により何度も嘔吐していたとのことでしたので念のため血液検査を実施させていただきました。
血液検査の結果大きな異常はなく、その他身体検査上大きな異常も認めなかったため、院内で活性炭の内服と点滴、制吐剤の注射を実施させていただきご帰宅となりました。

□ チョコレート中毒の概要
 ワンちゃんと一緒に生活をしている方々にとって、チョコレートは犬にとって有害なものであることはご存じのことと思います。
では実際チョコレートの中に含まれるどのような物質が有害なのでしょうか。チョコレート中毒を引き起こす成分はメチルキサンチン系化合物であるテオブロミンやカフェインになります。実際チョコレート内のカフェイン量はテオブロミン含有量と比較し低いことが知られており、テオブロミンはカフェインの6-10倍程度含まれているようです。これら物質が中枢神経や心筋細胞の興奮を引き起こすことで様々なトラブルを引き起こします。

□ 摂取量について
 テオブロミンやカフェインのLD50(50%致死量といわれ、摂取すると半数が死に至る摂取量)はどちらも1kgあたり100-200mgといわれています。一般的には食べてしまったチョコレートの種類により危険性は異なり、ホワイトチョコレートにテオブロミンはほとんど含まれておりません。ミルクチョコレートは1gあたり1.0-2.0mg程度、ダークチョコレートは4.5-9.0mgと含有量は多く、ココアパウダーは4.6-38mgほど含まれています。
つまり10kgのワンちゃんがチョコレート1粒(一般的な大きさのものを想像してください)程度食べただけでは中毒量には至らないわけです

しかしこれはあくまでも一般的な内容であり、一部では上記接種量よりも少ない摂取量で生命を脅かす重度な症状を呈する可能性も報告されているため、わずかな接種量だからと安易に考えず、必ず最寄りの獣医さんに相談することをお勧めします。

□ 症状について
 初期の症状として嘔吐、下痢、多飲(水をたくさん飲む)、尿失禁、落ち着きのなさ等が挙げられます。接種量が多いと頻拍、不整脈、過剰な興奮、高熱など呈し、さらに重篤な場合は痙攣、昏睡状態に陥り死に至る場合もあります。

またチョコレートは脂肪の含有量が高いことから摂取後24~72時間後に膵炎を引き起こす場合もあるため、チョコレートの誤食後数日は状態を観察する必要があります。

□ 治療
 チョコレート摂取が明らかであれば積極的な消化管の除染を行います。摂取してからすぐの対応であれば催吐処置(吐かせること)が最も実施しやすい除染方法であり、高濃度のカカオ含有製品であれば胃洗浄も検討されますが、臨床の現場で実施されることは稀です。
除染以外では活性炭(チョコレート内の成分を吸着する吸着剤)の投与が一般的ですが、内服のさせ方を誤ると誤嚥性肺炎、消化管閉塞を引き起こすため注意が必要です。また輸液十分に行うべきであり、強い消化器症状を呈している患者様や、膵炎を発症している患者様においては入院管理も検討すべきであると考えております。

我々さざんか動物病院は19:00~24:00までを時間外対応とし、夜間救急帯を設けております。

来院前に必ずお電話いただけますと幸いです。
他の患者様の手術中などでご対応が難しい場合もございます。大切な時間を無駄にしないよう必ず来院前にご連絡ください。

対応可能か判断させていただき、場合によっては他の救急センターをご紹介させていただく形でご対応いたします。