FIP(Feline Infectious Peritonitis:猫伝染性腹膜炎)は、主に若い猫で発症する重い病気です。
近年までは有効な治療法がありませんでしたが、現在は治療によって多くの猫が回復できる時代になっています。
このページでは、FIPの原因・症状・診断・治療について、飼い主さん向けに分かりやすくご紹介します。
🧪 FIPとは?
FIPは「猫コロナウイルス(FCoV)」が体の中で変異して発症する病気です。
猫コロナウイルス自体は一般的で、多頭飼育環境において90%以上の猫が感染しているという報告もあります。
ほとんどの猫は軽い下痢で済みますが、ごく一部の猫(1%前後)がFIPを発症します。
FIPには主に以下のタイプがあります:
- 滲出型(ウェットタイプ):お腹や胸に水がたまるタイプ
- 非滲出型(ドライタイプ):眼の症状や神経症状が中心
(※2022年の国際ガイドラインではこの分類をあまり使わない傾向があります。)
🐾 どんな猫が発症しやすいの?
以下の猫は発症リスクが高いとされています:
- 2歳未満の若い猫
- 未去勢オス
- ストレスを受けやすい環境の猫
(引っ越し、手術後、ワクチン後、上部気道炎など) - 多頭飼育環境にいた経験がある
- アビシニアン、ベンガル、ラグドールなどの純血種
🩺 FIPの症状
症状は猫によってさまざまですが、次のようなサインに注意が必要です:
● 全身症状
- 元気がない
- 食欲不振、体重減少
- 熱が続く(抗生剤でも下がらない)
- 顔や体の粘膜が白っぽい
- 粘膜が黄色い(黄疸)
● お腹・胸の症状
- お腹が膨れる
- 呼吸が苦しそう(胸に水がたまる)
● 眼の症状
- 目が濁っている(ぶどう膜炎)
- 虹彩の色が変わる
- 視力低下・失明
● 神経症状
- ふらつき、麻痺
- けいれん
- 異常行動や性格の変化
いずれも他の病気でも起こりうるため、総合的な検査が必要です。
🔍 FIPの診断について
FIPを100%確定できる単体の検査は少ないため、複数の検査を組み合わせて診断します。
典型的な症状がない場合、診断までの道のりが簡単ではありません。
行われる主な検査
- 血液検査(貧血、炎症、A/G比、ビリルビンの上昇など)
- 超音波検査:腹水・胸水・リンパ節の腫れなど
- 胸腹水の検査:特徴的な高タンパクの液体
- PCR検査(遺伝子検査):ウイルスRNAの検出
- 抗原検査:組織からウィルス(抗原)を検出する
- 抗体検査:ウィルスと戦うための免疫(抗体)を測定する
- 眼房水や脳脊髄液の検査(必要に応じて)
特に腹水・胸水がある場合、PCR検査や抗原検査は診断にとても役立ちます。
💊 FIPの治療
かつてFIPは「治らない病気」とされていましたが、現在は抗ウイルス薬により80%以上の高い寛解率が海外の論文にて報告されています。
主に使用される抗ウイルス薬
- GS-441524(経口・注射)
- レムデシビル(注射)
- モルヌピラビル(経口)※一部副作用に注意
※日本ではいずれも未承認薬のため、輸入品を適法に扱う必要があります。
治療期間
- 基本:84日間(12週間)
- 症状により注射や内服を組み合わせて治療する
- 軽症例では最初から内服で治療する場合もあります
副作用や注意点
- 一部の薬で肝酵素の上昇
- 注射剤は痛みを伴うことがある
- 神経型・眼型は高用量が必要
- 治療後2週間以内の再発が多いため注意深い経過観察が必須
- 治療費が高額になりやすい
🌈 治療による予後
適切な治療を早期に開始すると、近年では多くの猫が回復します。
国内外の研究では、寛解率80〜95%と非常に良好ですが、再発する場合もあります。
🏠 飼い主さんへメッセージ
気になる症状がある場合は、どうぞお気軽にご相談ください。